Daily Archives: 2010年8月16日

カナダの移民政策・多文化主義 -タミル人難民から考える-

8月12日の朝、玄関で新聞を拾い上げると490名のタミル系スリランカ人を乗せたMV Sun Sea号がまもなくバンクーバー沖に到着するという記事が飛び込んできた。

昨年10月に79名のタミル系スリランカ人が船でバンクーバーに到着し難民申請をしたばかりである。現在、79名は全員トロントに落ち着き、難民審査の結果を待っている。490名を乗せた船はカナダ国境警備隊にエスコートされビクトリアのEsquimalt Harbourに入港した。MV Sun Seaに乗っていた人々はこれから健康診断や指紋押捺を行い、一時拘置所に収容されることになる。おそらく全員が難民として受け入れられることになるだろう。

昨年9月、25年間続いたスリランカ政府軍(シンハリ人)と反政府武装組織のタミル・タイガーの間の内戦が終結された。この内戦により多くのタミル人が難民となり国外に流出し、カナダを含む数カ国が彼らを難民として受け入れてきた。内戦は終結したものの人権抑圧や虐殺の恐れから逃れるために、今でもタミル人は国外に救いを求めるしかない、とカナダでタミル難民を支援するグループは述べている。

カナダは、難民に対して非常に寛大な措置を取っている国として知られている。アフガニスタン、コロンビア、イラン、などの国から多数の難民を受け入れており、その数は2005年だけで1万400人。カナダに定住するのは難民として来た外国人だけではない。正式に移民申請をし審査を受け永住権を付与された人々も相当な数にのぼる。

1971年に世界で初めて多文化主義(multiculturalism)を導入したカナダは人種や民族の多様性を尊重し、すべての人々が平等に扱われなければならない、という理想のもと国づくりに励んできた。1967年、移民法にポイントシステムが導入され、申請者の英語やフランス語能力や学歴、職業技能にといったカテゴリーに基づきポイントが与えれらることになった。移民法が、多文化主義という後ろ盾を得て、カナダは移民大国の道を突き進んでいくことになる。カナダは雇用や医療制度の問題を抱えながら多数の外国人を受け入れたきた。難民や移民受け入れによる社会的コストはすべて納税者負担である。今回のMV Sun Seaで到着した難民にかかる費用は一人当たり5万ドルといわれている。審査結果がでて、無事に永住権を取っても英語ができなければ仕事につくこともできない。この場合、生活保護を申請することは容易に想像できる。カナダは国内問題のリスクを抱えても、人道的な見地から移民を受け入れる素晴らしい国だ、ということになるのだろうか。

もちろん、命の危険にさらされている人々を保護するのは当然であり、この点に関して反対を唱えるカナダ人は一人もいないはずである。ただ、今回のタミル人の受け入れには多くのカナダ人がNoという態度を示している。その反対の理由を見てみる様々な問題点が浮かんでくる。

Ocean LadyとMV Sun Seaで到着した「難民」は一人当たり約4万ドルの手数料を越境請負業者(Human smugglerまたは Human Traffickerなどと呼ばれる)に支払ってタイから船に乗り込んでいる。これらの人々は本当に「難民」と呼べるのか?4万ドルを支払う能力があるなら、なぜ正式に難民申請をしないのか。カナダ国外では多くの移民申請者が審査結果を待っている。これらの人々はすべて自己負担で申請をし、中には5年も6年も待たされる人も少なくない。

Ocean LadyやMV Sun Seaでカナダに到着したタミル系スリランカ人はタミル・タイガー(カナダ政府がテロ組織と認定)が、カナダ政府の対応を見極めるためのテストケースである、というのがカナダ公安省の見方である。これらの難民の中にはテロリストや犯罪者が含まれていると言われており、当然なからこのような難民は「犯罪者」であり申請の資格はない。Ocean Ladyに乗ってきた76名の中には、要注意人物としてリストアップされていたタミル人も含まれていたが、結局この人物も含め全員が60日後に難民申請を済ませてトロントに移り住んでいる。今後不法入国者に対してカナダは断固とした厳しい措置をとらなければ、「カナダはテロリストだろうか犯罪者だろうか、とにかく船に乗せてカナダに向かえば受け入れてくれる」という誤ったメッセージを世界に送ることになるのではないか。

現在のカナダの法制度では、国際水域に入った難民船は受け入れるしかない。カナダだけでは解決でいない問題として、カナダ政府はスリランカやタイを含む東南アジアの国々に協力を求めている。ここで、タミル人が難民ならなぜ国連難民高等弁務官事務所がスリランカの問題に介入しないのかという疑問がわいてくる。国連は、スリランカの内戦は終結しているので国連が保護する必要はない、という新しいガイドラインを出している。よって、彼らを難民として扱うかどうかはカナダ政府の判断にかかっているのである。

Ocean LadyとMV Sun Seaで到着した「難民」はタイで船に乗り込みカナダに向かった。ということはすでにタイに避難していたわけである。一人当たり約4万ドルの手数料を越境請負業者(Human smuggler, Human Trafficker)に支払って船に乗りカナダに到着した人々を本当に「難民」と呼べるのか?カナダ国民が納得しない点である。

トルドー首相が多文化主義の声明を出してから40年近くたった今、人種や民族の多様性を尊重し、平等の権利をうたった政策にはっきりと異議を唱える人が出てきている。私たちは多文化主義がもたらすマイナス面に目を向ける必要がある。いつかこの点について書きたいと思う。

今日のブログを終わる前にひとつ多文化主義の良い点をあげるとすれば、本格的なエスニック料理が食べられること。お手頃な値段で世界の料理が楽しめるのはトロントならではである。